車 体(その4)


【疑惑の車両・コキ104-94】

最大の謎に遭遇しました。



[コキ104-94](以降94番)といえば川重で製造された平成2年の一次ロット
[61〜148番]のうちの1両です。前項で紹介した謎コキのメンバーですが
この94番はそんな騒ぎではありません。

94番は「車体の造り直し」または「振り替え」をしています。



残念ながらフェンスの向こう側にいたので、ちゃんとした形式写真は撮影できませんでした。
傍から見れば何のことはない普通のコキ車に見えます。
しかし細部を見ると若番にあるはずの初期製造車の特徴が何一つありませんでした。

以下の画像で説明していきます。



@ 斜めの梁に沿った溶接跡があるので川重車体と分かります
A しかしツイストロック本体下部の補強が小さく
B さらに縦の溶接跡がクランク状になっています



C また検査関係標記板の形状が「Bのヒ」で
D 手すり基部の補強が斜めに切られています



ちなみに初期製造車の基部補強は、先端が垂直に切られています。
自分もここの形状の違いを見て異端に気付きました。



そして決定的なのがこの車両に取り付けられていた銘板です。
ご覧のように「平成3年」となっています。
(銘板に重なる影から同車のものとお分かりいただけると思います)



参考として同一ロットの110番の画像を掲示します。標準的な川重の初期製造車です。
ツイストロック本体下部の補強が大きく、縦の溶接跡は直線です。
比較していただければ94番の異端ぶりがお分かりになると思います。



検査関係標記板も「Aのヒ」で手すり基部補強先端も垂直に切られています。
これにより94番以降から仕様変更となったわけではないことが分かります。



この日に観察できた94番は2位(A-C位)側のみでした。
しかし怪しい車両はやはり両側を見なければ何も始まりません。
ここに入線したコキ車は翌日入換をするのは分かっていましたが
残念ながら撮影に行く事は叶いませんでした。
果たしてこの日以降、94番を求めて通い続ける日々が続くのでありました。

そして…

いつ来るとも分からないコキ104-94にようやく巡り合うことができたのは半年後でした。
観察場所に通い続けること22回、ほぼ週一で行った計算です。



継走されるため切り離された編成の中にさりげなく入っていました。
「ようやく来やがったな、ちくしょうめ」って感じよりも
「あぁ、今日観察に来てよかった」という安堵感の方が大きかったです。ではさっそく観察します。



未見だった1位(@-B位)側です。まずここである事に気付きます。
それは検査関係標記板の形です。



2位(A-C位)側のそれが「Bのヒ」に対し



1位(@-B位)側は「Aのヒ」が付いています。
実は両サイドで形の違う検査関係標記板が付いているのも平成3年製造車の特徴です。

もしかしたらこの「Aのヒ」型の標記板が唯一残された
元の94番の忘れ形見なのかも知れません。



1位(@-B位)側もツイストロック本体下部の補強が小さく、縦の溶接跡もクランク状です。
また斜めの溶接跡に加え、ブレーキ緩解引棒が車番から離れているので
内部構造も含め完全な川重車体ということが分かります。



台車は前位側、後位側共にFT1形の前期型台車側枠で、前ぶたもJT-11形です。



台車銘板を見ると製造番号は「900492」、製造年月は「へ2-5(平成2年5月)」、製造は川重でした。
これも元の94番が履いていた台車とも考えれらますが、台車は交換もされるので何とも言えませんし
新製時でも「車体の番号順+台車の番号順の組み合わせ」とは限りません。



前位側の銘板は撮影が少々困難でしたが、川重製のFT1形と確認できます。
おそらく後位側台車と同じ平成2年製と予想されます。



これは前位側の台車ですが、注目していただきたいのは緊締装置の当て板です。
ご覧のように下の梁に沿って切断されて短くなっています。
これも平成3年二次ロット車(911番〜)の特徴です。



よく見るとB位側の手すり下部が補修されていました。
しかし他車でも手すりの補修はあるので、今回の疑惑には関係ないでしょう。



念のため再度、製造銘板を確認しましたが
やはり平成3年の銘板が付いていました。



さて製造銘板に加え、その車両の出生を得る手掛かりが
JR貨物銘板の下に打刻された形式・番号です。
果たしてどうなのか…?



何事もなく普通に[コキ104-94]の打刻がありました。
何とも言えませんが、旧番号を埋めたような跡も見られないので
この車両(車体)は振り替えではなく、新たに造り直されたと考えるのが妥当でしょう。



■コキ104-94における違和感のまとめ■
   [コキ104-94]は平成2年一次ロットとして川崎重工で製造された「はず」。なぜ疑惑の目を向けるのかというと、実車には初期川重製にある車体の特徴が
 ほとんどといっていいほどありません。どこが違うのかという部分を下記にまとめました。
   注目箇所 94番の形状  相違点等
 1  車体構造  川重車体  ロット表でのメーカー振り分けおよび、斜めの溶接跡やブレーキ緩解引棒の位置また台車中心上の
短い縦梁等により
川重車体に間違いはない。
 2  製造銘板  川崎重工
平成3年
 94番は平成2年一次ロット[61〜148番]での生産車。このロットは平成2年4月〜同年7月に製造
されているので
平成3年の製造銘板が取り付けてあるのはおかしい。
 3  ツイスト補強  小さい  ツイスト下部の補強は平成2年二次ロットの[〜380番]までが大きく、例外的に小さい車両もいるが
それらは全て日車車体で作られている。
380番以前の川重車体で補強が小さいのはおかしい。
 4  縦の溶接跡  クランク状  縦の溶接跡がクランク状になるのは平成3年二次ロット[911番〜]からで、それ以前の車両は全て
直線で仕上げられている。したがって
平成2年ロットの車両でクランク状なのはおかしい。
 5  検査関係標記板  Bのヒ  川重製でB型の検査関係標記板の取り付けが始まったのは平成3年一次ロットから。したがって
平成2年ロットの車両にB型が付いているのはおかしい。
 6  手すり基部先端 斜め   初期製造車の手すり基部補強は先端が垂直に切られている。切り取りが無くなったのは平成2年二次
ロットの[291番または292番]から。
同じ平成2年ロットでも二桁番号製造車で切り取りがないのは
おかしい。
 7  銘板下部の打刻  コキ104-94  画像での判断になるが元の打刻を埋めて打ち直したり二重に打刻されていないので、この車両は
振り替えではなく新たに製造された車体と考えられる。
 8  台車銘板  平成2年5月  平成3年生産車なら台車も同年製造のものを履いているのが普通。ただし台車については履き換えが
行われているので、
平成2年製造の台車を履いていても不思議ではない。
  前位側の当て板  小型  前位側の緊締装置の当て板が下の梁に沿って切り取られ小型になるのが切り取られ小型になるには
平成3年二次ロットから。
平成2年ロットの当て板は大型なので切り取られているのはおかしい。


◆ 総評 ◆

状況証拠的に見れば

「コキ104-94は平成2年の新製後1年程度で何らかの理由により平成3年に車体を造り直しそれを新たな94番とした」

となります。そしてそこへ至る理由として「廃車」と「損傷」が考えられます。
廃車であれば理由は明白です。しかし損傷の場合はどうでしょうか?
一口に「損傷」といってもその度合いは「軽微〜重大」、平たく言うと「小破〜大破」まであります。

ここで一つの仮説を立てます。

「94番の損傷は重大で、車体を新たに造り直さなければならないほど酷かった。
そこで車体は新製したものの、元のA型の検査関係標記板や台車を再利用することで
あくまで「新製」ではなく「車体更新」のような形で処理をした」

どうでしょうか?ややこじつけな感もありますが、納得いく説になったと思います。
今回の話ではありませんが、実物誌を読むと「クハ××は書類上は木造車の更新となっているが
全くの新製で、元の車両から使われたのは連結器だけであった」なんて記事があったりします。

実際のところ、廃車後に全てを造り直したならば総製造数が合わなくなります。
まさか闇で一両多く製造した、なんてことはあり得ないはずです。
ただ更新でも車体を新製したのでメーカーは普通に平成3年の製造銘板を付けたのでしょう。

コキ104-94の新製直後の鮮明な写真があればいろいろと分かると思いますが
なかなか見つかりませんね。
車体は新しくなったものの、あくまで「車体更新」なので現車は[コキ104-94(U)]ではなく
普通に[コキ104-94]と呼ぶのが妥当でしょう。


[疑惑の追加・コキ104-545]



さて94番の疑惑は一応の解決(?)を見ましたが
その94番に関連した疑惑の車両がもう一両あります。
それがこの[コキ104-545]です。



こちらも94番同様、傍から見れば何のことはない普通のコキ車です。
ではどこに疑念の目がいくのかというと…



なんと製造銘板が付いていません。
そして手すり基部の補強が初期製造車のように垂直に切られています。
これは一体…!?



アップで見てみます。
銘板の跡が残っているので初めから付いていないのではなく、外された事が分かります。
また取付ネジ付近の塗料の様子から、外されてからそれなりの時間が経過していると想像ができます。

なぜ銘板が無いのか?破損か、あるいは盗難か。
いや、もしかしたら出生を隠すため、わざと外したのかも知れません。

545番は川重製平成2年三次ロット車ですが、実際に製造されたのは年が変わった平成3年です。
なのでここには「川崎重工 平成3年」の銘板が付いていたはずです。
平成3年製造車、そして垂直に切られた基部補強と合わせて
実は94番と545番の車体が入れ替わっているのでは?という疑念が生じます。



では545番の細部を見ていきましょう。
斜めの溶接跡がある川重車体で、縦の溶接跡は直線です。
また先に掲示した画像から手すり基部補強が垂直に切られていること
検査関係標記板が「Aのヒ」ということも確認できます。

しかしツイストロック本体下部の補強は小さく、川重初期製造車の特徴とは合いません。
なお画像は掲示しませんが1位側の造りも同様なのを確認しています。



もう一つの手掛かり、JR貨物銘板下の打刻も[コキ104-545]でした。
94番と同様に新たに打刻し直したようには見えません。



台車はFT1形の前期型台車側枠で前ぶたもJT-11です。
また緊締装置の当て板も大型が付いています。



台車銘板の製造番号は「900543」、製造年月は「へ2-6(平成2年6月)」、製造は川重でした。
しかし94番でも書いたとおり、台車は履き換え等があるので判断材料としては確証が乏しいです。



結局545番の車体は手すり基部補強の形状以外、川重製平成2年三次ロットの標準的な造りでした。

したがって94番と545番は「車体の入れ替わりはしていない」と結論できます。

決定的なのはやはりツイストロック下部の補強と縦の溶接跡です。
94番ならば下部補強は三角形の大型ですが、545番のそれは小型です。
また溶接跡も545番は直線で間違いはありません。
検査関係標記板は両側共「Aのヒ」ですが545番はギリ平成2年ロットなので
こちらも相違ありません。

銘板が無い理由は不明ですが、やはり破損もしくは盗難と考えられます。
製造銘板はメーカー取付け品なので無いからといってJR貨物が勝手に造って
取り付けるわけにはいかないのでしょう。また基部補強は破損等で交換したか
あるいは新製時に余っていた部品を使用していたのかもしれません。
そもそも545番の銘板を外して出生を隠しても、94番に銘板が付いていたのでは意味が無いですよね。

94番にしても545番にしても、私の力及ばずイマイチ中途半端な結論となってしまいました。
それにしても川重製コキ104には謎車両が多いですね。


←← リストへ戻る ← [(3)謎のコキ104]へ戻る ■ [(4)車体の違い(コキ104)]へ進む →

inserted by FC2 system